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最高裁判所第三小法廷 昭和61年(オ)965号 判決 1988年3月15日

上告人

西村光雄

右訴訟代理人弁護士

橋本盛三郎

浜田次雄

松浦武二郎

松浦正弘

山下潔

被上告人

明星自動社株式会社

右代表者代表取締役

橋本等

右訴訟代理人弁護士

南出喜久治

大戸英樹

小林昭

主文

原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

上告人が被上告人の株式一万三〇八二株を有する株主であることを確認する。

被上告人は上告人名義の株式一万三〇八二株について上告人が被上告人の株主総会において株主としての権利を行使することを妨害してはならない。

訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人橋本盛三郎、同浜田次雄、同松浦武二郎、同松浦正弘、同山下潔の上告理由について

一原審が適法に確定した事実関係は、次のとおりである。

1  上告人は、被上告人の株式一万三〇八二株を有する株主であつたところ、右株式は、京都地方裁判所において競売に付され、昭和五三年八月四日、エムケイ株式会社によつて競落され、同社に株券が交付された。

2  被上告人の定款には株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨の定めがあるところ、エムケイ株式会社は競落による株式の取得につき被上告人に対し商法二〇四条ノ五所定の承認の請求をしていないため、被上告人の株主名簿には、現在も上告人が一万三〇八二株を有する株主として記載されている。

3  被上告人は、上告人が被上告人の株主であることを争い、昭和六〇年六月二三日開催の株主総会以来上告人が株主権を行使することを拒絶している。

二原審は、右事実関係のもとにおいて、商法二〇四条一項但し書に基づき定款をもつて株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨定めている場合において、競落により株式を取得した者が会社に対して承認の請求をしていないときには、競落による株式の取得は、譲渡当事者間においては有効であるが、会社に対する関係では効力を生じないと解すべきであるとしたうえ、会社には競落人を株主として無条件に取り扱う義務はないが、従前の株主は競落人に対してはもとより会社に対しても競落が株式の譲渡制限に反することを理由に譲渡が無効であると主張することは許されないとして、上告人が被上告人の株式一万三〇八二株を有する株主であることの確認を求める請求及び上告人が右株式につき被上告人の株主総会において株主としての権利を行使することの妨害禁止を求める請求をいずれも棄却した第一審判決を支持した。

三しかしながら、右判決はたやすく是認することができない。その理由は、次のとおりである。

商法二〇四条一項但し書に基づき定款に株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の譲渡制限の定めがおかれている場合に、取締役会の承認をえないでされた株式の譲渡は、譲渡の当事者間においては有効であるが、会社に対する関係では効力を生じないと解すべきであるから(最高裁昭和四七年(オ)第九一号同四八年六月一五日第二小法廷判決・民集二七巻六号七〇〇頁)、会社は、右譲渡人を株主として取り扱う義務があるものというべきであり、その反面として、譲渡人は、会社に対してはなお株主の地位を有するものというべきである。そして、譲渡が競売手続によつてされた場合の効力については、商法は特別の規定をおいていないし、会社の利益を保護するために会社にとつて好ましくない者が株主となることを防止しようとする同法二〇四条一項但し書の立法趣旨に照らすと、右の場合における譲渡の効力について、任意譲渡の場合と別異に解すべき実質的理由もないから、譲渡が競売手続によつてされた場合の効力についても、前記と同様に解すべきである。

そうすると、株式の譲渡制限の定めのある被上告人の株式一万三〇八二株を有する株主となつた上告人は、その後に右株式がエムケイ株式会社によつて競落されたとしても、被上告人に対し自己がなお右株主であることを主張することができ、また、被上告人も上告人を株主として取り扱う義務があるものというべきである。したがつて、これと異なる原審の判断には商法二〇四条一項但し書の規定の解釈適用を誤つた違法があるというべきであり、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから右の違法をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、原審の適法に確定した前記事実関係によれば、上告人の請求はいずれも理由があるから、これをいずれも棄却した第一審判決を取り消したうえ、上告人の請求をいずれも認容することとする。

よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見により、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官安岡滿彦 裁判官伊藤正己 裁判官長島敦 裁判官坂上壽夫)

上告代理人橋本盛三郎、同浜田次雄、同松浦武二郎、同松浦正弘、同山下潔の上告理由

一、原判決は、上告人が被上告人の株主であるとの上告人主張を認めなかった第一審判決を維持して、上告人の控訴を棄却した。

しかしながら、原判決には判決に影響を及ぼすこと明なる法令の違背があるものである。

二、上告人が有していた被上告人の株式一万三〇八二株は、昭和五三年八月四日、訴外エムケイ株式会社が競落したものであるが、株主名簿の書換えはなされておらず、その後においても上告人が株主として議決権を行使してきたものである。

なお、被上告人の定款には、株式の譲渡には取締役会の承認を要する旨の定めがある。

三、ところで右のごとく株式の譲渡制限がなされている場合における、取締役会の承認のない株式譲渡の効力について、最判昭和四八年六月一五日民集二七巻六号七〇〇頁は、「会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間においては有効であると解するのが相当である。」としている。

四、右のとおり、取締役会の承認のない株式の譲渡は、会社に対して無効である。会社に対して無効である以上、会社に対する関係において従前の株主が株主として取扱われるべきことは当然である。

右の理は、株式の任意譲渡だけでなく、競売、公売の場合にも妥当する。すなわち、任意譲渡も競売、公売も共に、商法第二〇四条第一項但書の譲渡制限の対象たる譲渡に相違ないのであるから、これを別異に取扱う理由はなく、競売、公売の場合においても、取締役会の承認のない株式譲渡は、会社に対する関係では等しく無効なのである。

五、原判決が支持した第一審判決は、「『会社に対する関係では効力を生じない』ということの意味は、譲渡の相手方を指示する権利が会社に留保されているから、会社には競落人を株主として無条件に取扱う義務はない、ということにほかならない。」と述べる。

しかしながら右原判決(第一審判決)の説明は、「会社に対抗することを得ず」(例えば商法第二〇六条参照)の説明としては妥当するが、会社に対する関係では効力を生じないという場合には当を得ないものである。

原判決(第一審判決)は、商法第二〇四条の解釈を誤り、前記最高裁判例と相反する判断をしたものである。

六、前記最高裁判例は、右株式譲渡制限の趣旨は「もっぱら会社にとって好ましくない者が株主となることを防止することにあると解される。」と述べる。

そうであれば、取締役会の承認のない間は、会社(本件においては被上告人)に対し株主名簿上株主とされている譲渡人(本件においては上告人)を株主として取り扱わせるのが相当であり、このことにより会社に対し何らの迷惑、損害を及ぼすわけではない。

したがって、「譲渡の相手方を指定する権利が会社に留保されているから」といって、「会社には譲渡人を株主として無条件に取扱う義務はない」というのは誤った解釈であって、商法における画一的取扱いの理念からすると、むしろ「会社には譲渡人を株主として無条件に取扱う義務がある」とみるべきである。

七、原判決(第一審判決)の解釈判断によれば、競落にかゝる株式について権利を行使し、利益を享受する株主が一時不存在となり不当な結果となる。

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